DAW & DTM 音楽理論

位相反転によるボーカルキャンセルと抽出方法

2019年8月26日

どもども。

プロの歌手のボーカルだけ聴いてみたいって思いません?
はたまたプロの歌声を使って、自分でアレンジした曲に入れちゃうとかもしてみたい。

そんなことができちゃう裏技があります。
でも著作権とかはきちんと守リましょうね。

今回は『位相』についてお話ししてみたいと思います。

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位相の反転と音波の関係性

そもそも位相ってなんのことでしょう。
それを説明する前に「音は波で伝わる」ということです。

音波(おんぱ)と言いますね。
空気の分子を揺らし振動となって広がり、聴覚器官で捉えたものを音として認識しています。

DTMなどでも扱うオーディオデータもその波形で表しています。

このウニみたいなトゲトゲを拡大していくと下記のような波になっています。

位相反転

ここでは分かりやすいように
波のように繰り返される一周期のうち、揺れが同一になる箇所を「位相」と呼びます。

下記はその波を簡単に表したものです。

波形図①

このような波形に対し位相を反転すると下記のような波形になります。

波形図②

上下が逆さまの波形になりました。

ではなぜ位相を反転させるのでしょうか。

同周期の反する位相が重なることで音を打ち消しあってしまう

先ほどの波形図①と②を同時に鳴らすと・・・

波形図③

音が消えます。
不思議なものですね。

ココがポイント

全く同じタイミングと音量で鳴らさないと消えません。

PAには必須の位相反転スイッチ

ライブハウスやコンサート会場ではマイクを使って音を拾い、ミキサーへ入力します。
特にドラムなどはマイクの数が多数必要になります。

似通った音を入力した際に、上記波形図①〜③の現象が起こり得ます。
波形が打ち消し合い、無音にならずとも音圧が低減してしまうんですね。

それを解消するため、PAさんの扱うミキサーには位相を反転してくれるボタンがついています。

ドラムのスネアなどは、トップとボトムにマイクを立てるのが一般的です。
そのため2つの入力で位相が似てしまうため、反転することで解消することができます。

ドラム音源の『BFD』にも位相反転ボタンがついています。

位相反転を使った応用編

先ほどまでは「位相」について、音圧の低減を解消する方法などに使われるというお話でした。

ここからは『DTMでできる位相を使った音遊び』をお伝えしたいと思います。

用意するもの:歌入りとカラオケのステレオ2ミックス

音を消す

まずは本当に消せるのかを試してみましょう。

用意したオーディオデータのどちらでもいいので、シーケンストラックに同じものを2つドラックします。

トラックにプラグインの「フェイズ」をインサートします。

Digital Performerの場合は『Invert Phase』プラグインをインサートします。

プラグインとしてフェイズがないDAWの場合は、オーディオデータをコピーして並べてください。
そして片方に『フェイズ』、または位相を反転する等の処理をしてください。

あとは再生するだけ。
Audioトラックの1と2が出力されていますが、マスタートラックは0になっています。

この時、Audioトラック1と2どちらかのフェーダーをずらすと音が出ます。
無音にするには、どちらも全く同じ音量である事も条件の一つです。

また、2つのオーディオデータが、シーケンス上でズレているほど効果が下がります。

ボーカルだけを抽出する

歌入りの2ミックスと、歌なしの2ミックスをシーケンストラックに並べます。

そしてどちらか片方にフェイズをインサート、または適用させます。

再生すると、ほぼボーカルのみが再生されます。

①元のオーディオ

 

②フェイズをインサートしたオーディオ

完全に歌だけ、とはいきませんが、ほぼ歌のみを抽出できています。

ココがポイント

歌が入っているオーディオと歌が入っていないオーディオを合わせる事で、演奏部分を打ち消し合い歌だけが残る。
歌以外は全く同じオーディオデータというのがポイントです。

歌を消す

さてお次はボーカルキャンセルです。
これはちょっと手間がかかります。

まずは歌入りのオーディオをシーケンスへドラッグします。

続いて歌入りのオーディオトラックをモノラルに分解します。

お使いのDAWによって操作が違いますが、どれも可能な内容です。

Waveformで全選択後に片方のチャンネルをダブルクリック → New Audio File from Selected Soundbites
もう片方のチャンネルも行い、LとRをそれぞれモノラルオーディオへ分離します。

シーケンストラックにモノラルトラックを2つ追加し、先ほどのモノラルオーディオをドラックします

追加した2つのモノラルトラックに「フェイズ」をインサート、または位相反転を適用させます。
そしてモノラルトラックLのパンをRに、RのパンをLにします。

再生するとボーカルが打ち消されます。

③センターに位相反転させたオーディオ

オーディオトラックのセンターがなく、他の楽器も消えています。
あまり意味がないような気もしますね。
左右に振ってあるコーラスは消えずに残っています。

ココがポイント

全く同じオーディオを掛け合わせて位相を反転すると消えてしまうので、LとRを逆に入れ替える事でセンターのみにフェイズさせました。

メモ

上記のようにモノラルオーディオを作成しなくても、オーディオの左右を入れ替えられるDAWなら分離しなくてもOKです。

無音にもできる

先ほどパンを左右に振りましたが、それぞれ逆の方へ振ってみます。

すると、また音が消えました。

まとめ

位相の反転は打ち消しあって低減してしまう音圧を取り戻すためにある。
また、その応用で特定の箇所を消し去ることができる。

ボーカルキャンセルといっても、綺麗に消せるわけではありません。
パンニングされていないボーカルやキック、スネア、ベースが主な対象になります。

リバーブなどのエフェクトがインサートされている場合は、ステレオに分散されたリバーブ成分は残ってしまいます。

100%無音にさせるには、DAW(DTM)のような環境が不可欠です。
実際に生でできないかと実験してみたところ、微妙に変わったかな?くらいの効果はありました。

ですが、無音にすることはできませんでした。

「全く同じ音を同じ角度、同じ音量で伝えることは出来ない」という結果に至りました。

というわけで、今回の成果は
「歌入りのオーディオトラックとインストのオーディオトラックが手に入れば、プロの方の歌だけ聴くことができる」

でした。

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なる

音楽と映像と写真と料理とお酒をこよなく愛すフリーランスの作編曲家。 バンドやユニット等のアーティスト活動を経て、フリーランスのクリエイターへ転向。 人生についてあれこれ試行錯誤しております。 お仕事のご依頼はお問い合わせよりご連絡ください。

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